桑名宿のしおり  第5回  浪漫と幻想の作家泉鏡花と桑名


JRと近鉄が隣接する桑名駅から、八間通りと名の付いた大変に美しい ゆったりとした道を東に1kmほど進むと旧桑名城(扇城とも呼ばれ海道 の名城とうたわれた)跡の九華公園にたどりつきます。 春は掘割に桜の花びらが散り敷き、菖蒲・つつじと通年花がたえること のない城跡を有したこの街は、美しい日本の歩きたくなるみち500選に (水と歴史を訪ねるみち)として紹介されております。 九華公園の掘割の手前を左に折れるとそこが旧東海道、250mほど歩 いた突き当りが七里の渡しで東海道唯一宮(熱田)から桑名宿まで七里の 海路のためこの名がついております。七里の渡しは伊勢街道の起点でも あり、その鳥居は伊勢神宮の式年遷宮の折神宮にたっていたものをここ に移すという他に類をみないものでもあります。


八間通りを左におれて旧道に入った数軒先に歌行燈の看板を挙げた風情ある店、ここが1910年発表された泉鏡花の代表作といわれる歌行燈の舞台の一つとなった饂飩店志満屋で、作品の中で描写された風情を彷彿とさせる佇まいのまま今も愛されております。 志満屋の下りの一文は作品のなかでも秀逸で、饂飩屋の亭主がうっかりと聞き惚れ、染めた前歯も美しい女房が身に染みてぶるぶると震えたと言った門附の博多節の三味線の音色や歌声、釜からでた湯気のうちへすっきりとでた頬被りの中の清しい目の主人公喜多八の少しやつれたやせぎすの風情、熱燗のぬくもり、饂飩と薬味の香りまで伝わって、生まれた時代を間違えたこんな日本の日常のなかで暮らせたらと感じさせる世界観です。 泉鏡花が小説の舞台に選んだのもうなずけるこの街は、まさに美しい日本の歩きたくなるみちです。 桑名の街には日常の中そこここに、聞けば驚きの歴史が見え隠れしています。今も揖斐川の土手にたてば、雄大な川の流れの向こうに鈴鹿山系の山並みが望めます。東海道五十三次四十二番目の桑名宿はまさに水と歴史を訪ねるみちにふさわしい佇まいを今に残しております。ぜひ一度この美しい街をお訪ねくださいませ。







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